vol.59 2022/07/01
賃金の全額払いの原則とその例外
今号の目次
- はじめに
- 賃金の支払いに関する原則
- 労働基準法上の例外
- 最高裁法理による例外
- 当事務所の紹介
1. はじめに
本稿では、日ごろ、監理団体の皆様から弊所にお寄せいただくご相談のうち、その頻度が高い「賃金の全額払いの原則」について解説をします。
2. 賃金の支払いに関する原則
賃金は①通貨により②直接③毎月1回以上定期に④全額支払いをすることが求められます(労働基準法第24条)。
これらは賃金支払いの4原則などとも呼ばれます。
本稿では、これらのうち全額支払いの原則の例外がどこまで許容されるのかについて解説します。
3. 労働基準法上の例外
労働基準法第24条で定められている全額支払いの原則の例外は①法令又は②労働協約に定めがある場合です。
①は所得税法183条、地方税法321条の5,厚生年金保険法84条、健康保険法167条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律32条などがあります。
源泉徴収税、住民税、社会保険料、労働保険料等は法律上、賃金から控除することが可能となっています。
②は事業場の過半数代表との書面による協定(労使協定)がある場合です。
但し、労使協定があっても、①使用者が労働者に貸し付けた債権との相殺は認められず(労基法第17条)②相殺制限(原則として賃金の4分の1までしか相殺不可)ので、注意が必要です。
4. 最高裁法理による例外
労働基準法上は上記2パターンのみを全額払いの原則の例外として認めるに過ぎませんが、「労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合」、それが「労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」労使協定がなくても、全額支払いの原則に違反しないとする最高裁判例があります(平成2年11月26日、日新製鋼事件)。
この最高裁判例により、「労働者の自由な意思に基づく合意があれば、賃金からの天引きが許容される」という考え方が一般に広がっていますが、あくまで労働基準法には明記のない、同法の例外的な場面に対する判例法理であることは理解しておく必要があります。
また、「労働者の自由な意思に基づく合意」と言えるかは同意に至った経緯や態様、反対債務の性質(労働者にとって有利か)、相殺額の多寡等を総合考慮するとされており、単に合意書を締結すれば良いのではない、点には注意が必要です。
5. 当事務所の紹介
以上、本稿では日頃、監理団体の皆様からお問合せの多い賃金の全額払いの原則とその例外について解説をさせていただきました。
弊所では、実務的な運用が確立していない技能実習法の分野においても、「chatwork」でお気軽にご相談いただき、事実関係を精査しながら依頼者の皆さまとより良い技能実習を実現できるよう努めております。
今後も皆様のお役に立てるよう努めてまいりますので、お気軽にご相談ください。