vol.60 2022/08/01
外国人技能実習制度の見直し
今号の目次
- 法相勉強会で指摘されていた技能実習制度の課題
- 指摘された課題を背景とする技能実習生の失踪問題
- 外国人技能実習制度の本格的な見直しの公表
- まとめ
1. 法相勉強会で指摘されていた技能実習制度の課題
古川禎久法相(前法務大臣)は、特定技能とともに技能実習の問題点を把握するため、本年2月から11回にわたって学者やNPO関係者を呼んで「特定技能制度・技能実習に係る法務大臣勉強会」を開いていました。
同勉強会では、①国際貢献の目的と人手不足を補う労働力として扱っている実態の乖離、②実習生の日本語能力が不十分で意思疎通が困難な例があること、③技能実習生が不当に高額な借金を背負って来日していること、➃技能実習生が原則として転籍ができないことから、実習先から不当な扱いを受けても相談や交渉ができないことなどの課題が指摘されていました(2022年7月30日 日本経済新聞など)。
2. 勉強会で指摘された課題を背景とする技能実習生の失踪問題
近年、技能実習生の失踪が後を絶たない状況であり、その背景として、上記の課題が要因となっているとの指摘があります。
日本で働く技能実習生は、2021年末時点で約27万6000人ですが、2021年の失踪者は全体で約7100人に及びました(2022年7月29日 日本経済新聞など)。令和4年7月26日に出入国在留管理庁が公表した実体調査では、実習生の5割超が来日のため平均54万円の借金をしているとの結果が出ています(出入国在留管理庁 技能実習生の支払い費用に関する実態調査について)。技能実習生が来日前に、母国の送り出し機関又は仲介者に支払う手数料等のために高額な借金を背負い、来日後の収入が想定より低ければ返済計画に支障をきたすことになりますが、技能実習生制度では、原則として3年間は転職が認められていないため、より高い収入を求めて実習先から失踪し、結果的に不法就労に至る例がみられます。
また、直近では岡山市の建設会社でベトナム人技能実習生が日本人従業員から暴行を受けてケガをしたとされる事案が問題となりましたが、技能実習生への暴言や暴力などを理由とする失踪もみられます。
3. 外国人技能実習制度の本格的な見直しの公表
古川禎久法相(前法務大臣)は、令和4年7月29日の記者会見で、技能実習制度について、関係省庁と本格的な見直しを行うことを公表しました。
同記者会見では、技能実習制度は、人づくりによる国際貢献という技能実習制度の目的と人手不足を補う労働力として扱っているという実態が乖離していること、技能実習生と実習実施者双方において事前情報が不足しているためミスマッチが生じている事例(「聞いていたよりも賃金が低い」、「聞いていたよりも能力が低い」など)があることなどを踏まえて、技能実習制度の見直しにあたって、次の4つのポイントを挙げていました。
【4つの見直しのポイント】
(1) 政策目的・制度趣旨と運用実態に乖離のない、整合性のある分かりやすい仕組みであること
(2) 人権が尊重される制度であること、実習実施者、技能実習生の双方が十分に情報を得て、自ら判断できる環境を整え、現行技能実習制度において、一部の実習先で生じているような人権侵害事案が決して起こらないこと
(3) 日本で働き、暮らすことにより、外国人本人の人生にとっても、また我が国にとってもプラスとなるような右肩上がりの仕組みとし、関係者のいずれもが満足するものであること
(4) 今後の日本社会の在り方を展望し、その中で外国人の受け入れと共生社会づくりがどうあるべきか深く考え、その考えにあった制度とすること
法務省として、本格的な技能実習制度の見直しによって、「長年の課題を歴史的に決着に導きたい」と話されています(法務省HP 令和4年7月29日 法務大臣閣議後記者会見の概要)。
4. まとめ
今月号では、技能実習制度の本格的な見直しの報道をご紹介しました。
近年、国際社会から我が国の技能実習制度の実態について人権侵害であるとの批判が相次いています。
経済産業省は、企業がサプライチェーン全体で人権侵害を把握し、改善に取り組む「人権デューデリジェンス」の指針案をまとめました。同指針案では、日本特有の問題として技能実習生への人権配慮が例示されています。技能実習制度の課題を先送りすれば、世界での人材獲得競争に後れを取るだけでなく、サプライチェーンの構築・維持が困難になり、ビジネスから取り残されるリスクも懸念されます。
今後、技能実習制度の廃止を含めた抜本的な改革が行われる可能性がありますが、まずは、これまで以上に実習実施者や監理団体に対する監督体制の強化を行い、法令順守を徹底させる施策が打ち出されることが想定されます。
技能実習制度に携わる皆様にとって、技能実習制度に関する最新動向を把握していただく重要性がより一層高まっておりますので、今後とも有益な情報発信を心掛けたいと思います。何卒よろしくお願いいたします。