vol.20 2019/03/20
違反の一番多い「労働時間」について解説!事業所の70%超が労働関係法令違反!
2019年8月8日、厚生労働省は、全国の労働局や労働基準監督署が、平成30年に技能実習生が在籍している実習実施者の事業場に対して行った監督指導や送検等の状況を下記のとおり公表しました。
概要は以下のとおりです。
- 労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した7,334事業場(実習実施者)のうち5,160事業場(70.4%)。
- 主な違反事項は、
- 労働時間(23.3%)
- 使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(22.8%)
- 割増賃金の支払(14.8%)
の順に多かった。
- 重大・悪質な労働基準関係法令違反により送検したのは19件。
第19回メールマガジンにも記載しましたが、労働基準関係法令違反で罰金を受けると、技能実習計画が取り消され、技能実習生はもちろん、特定技能外国人の受入れも5年間はできなくなってしまいます。外国人の受入れをお考えの皆様は労働関係法令違反があった場合のリスクをご認識いただき、労務コンプライアンス体制を整えていただく必要があります。
当事務所は使用者側労務に豊富な経験を有する弁護士が複数在籍しております。労務関係のお悩みはそのままにせず、当事務所までお気軽に御相談下さい。
それでは、第25回メールマガジンの配信です。
今号の目次
- 労働時間の規制について
- 労働時間規制の概要
- 36協定における時間外労働の原則的上限規制について
- 36協定で特別条項を定める場合の絶対的上限規制について
- 個々の労働者ごとの労働時間にかかる絶対的上限規制について
- 労働時間に関するQ&A
- あとがき
【労働時間の規制について】
厚生労働省の公表資料によると、労働関係法令違反の中で違反が一番多かったのは「労働時間(23.3%)」です。
昨年7月6日に働き方改革関連法が成立し、同法は既に施行されていますが、2020年4月1日には中小企業へも時間外労働の上限規制が適用されることになります。
労働時間規制の概要を確認するとともに、時間外労働の上限規制について確認していきましょう。
【労働時間規制の概要】
労基法32条は、使用者は、原則として、労働者を1日8時間・1週40時間を超えて労働させてはならない、としています。これを「法定労働時間」といいます。
法定労働時間を越えて労働させた場合、労基法32条違反で6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されるおそれがあります(労基法119条1号)。
もっとも、対象となる事業場において、労使間で書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、その事業場を所轄する労働基準監督署長に届け出ることによって、法定労働時間を超え又は法定休日に労働させることができるようになります(労基法36条1項)。
すなわち、36協定は使用者に対して労基法32条違反の刑事責任を免責する効果(免罰効果)を持つということです。知っている人からすれば当たり前の規制かもしれませんが、そもそも36協定を締結せずに法定労働時間を越えて労働させるだけで刑事罰を受けるおそれがある、ということを最初に抑えていただく必要があります。
【36協定における時間外労働の原則的上限規制について】
次に、36協定を締結する場合には時間外労働の上限規制がかかることを抑えていただくことが必要です。すなわち、36協定で延長できる労働時間を定めるにあたっては、月45時間・年360時間(変形労働時間制で対象期間3か月超の場合は月42時間・年320時間)が原則的上限(「限度時間」)となります(労基法36条4項)。
仮に限度時間を超えた36協定を締結した場合、労基法36条4項に違反する36協定は違法・無効となるため、36協定なしに違法な時間外労働をさせたものとして、労基法32条違反で罰則が適用されます(労基法119条1号)。
このため、36協定で法定労働時間を超えて延長できる労働時間を設定するにあたっては、月45時間・年360時間(変形労働時間制で対象期間3ヵ月超の場合は月42時間・年320時間)以内とすることが必要です。
【36協定で特別条項を定める場合の絶対的上限規制について】
もっとも、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に・・・限度時間を超えて労働させる必要がある場合」には、限度時間を越えて法定時間外労働又は法定休日労働をさせることができる旨の条項(「特別条項」)を定めることができます(労基法36条5項)。
特別条項は以下の1~3を遵守した内容で作成しなければなりません。
- 時間外労働の絶対的上限は720時間(労基法36条5項)
- 1か月の時間外労働・休日労働の絶対的上限は100時間(労基法36条5項、6項2号)
- 特別条項を適用できる回数は6回以内(労基法36条5項参照)
これらを超過する内容で特別条項を作成した場合、36協定が労基法36条5項違反で全体が違法・無効となるため、36協定なしに違法な時間外労働をさせたものとして、労基法32条違反で罰則が適用されます(労基法119条1号)。
【個々の労働者ごとの労働時間にかかる絶対的上限規制について】
加えて、働き方改革関連法による法改正によって、個々の労働者に対しても36協定により時間外労働又は休日労働をさせる場合の絶対的上限が定められました(労基法36条2項及び3号)。
- 1か月の時間外労働・休日労働が100時間未満であること
- 2か月ないし6か月の時間外労働・休日労働の平均が80時間以内
なお、2.は、複数の36協定の対象期間をまたぐ場合にも適用されます。
例えば、直近1ヶ月で95時間の時間外労働・休日労働をしていた労働者が
その前の月に75時間の時間外労働をしていた場合、95+75=170÷2=85で上記 2.の規制に違反することになります。
個々の労働者の労働時間が絶対的上限 1.又は 2.を超えた場合、労基法36条6項違反で6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されるおそれがあります(労基法119条1号)
上記のとおり、労働時間に関する規制は極めて複雑であり、刑事罰を受けるリスクがあります。上限規制に沿った36協定を締結し、適正に運用していくためには現場の実態を踏まえて実施することが必要ですので、必要に応じ専門家にご相談なさることをお勧めします。
【労働時間に関するQ&A】
質問:
36協定無しに法定時間外労働・休日労働をさせてしまった場合や、労働時間の上限規制に違反した場合、労基法違反で罰則が適用されると聞きました。この場合「使用者」が責任を負うと聞きましたが、直属の上司が責任を負うようなことはあるのでしょうか。
回答:
「使用者」とは、「事業主又は経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」をいう、とされています(労基法10条)。事業主以外であっても、労基法が定める事項についての実質的な指揮監督・決定権限を有する者が対象となります。このため、実質的に指揮監督・決定権限を有しているとされた直属の上司が責任を負うこともあり得ます。
2. あとがき
このたびは第25回メールマガジンをお読みいただき、ありがとうございました。
できる限り皆様の御要望にお応えしていきますので、「このテーマについて解説が欲しい」等の御要望がございましたら、弊所までご連絡ください(ただし、顧問契約をいただいている方からの御要望を優先させていただきますので、悪しからずご了承ください)。
また、私見も交えてメールマガジンを発行しておりますが、もし万が一「これは誤りではないか」という御指摘がございましたら、合わせてご連絡頂ければ幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。