vol.21 2020/02/20
パワハラ防止措置の義務化について
最近新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていますね。マスクはどこの店でも売り切れで、マスク売り場が空っぽになっているところをよく見かけます。技能実習にもかなり影響が出ているようで、外国人技能実習機構(以下「機構」といいます)は、令和2年2月14日付けで「新型コロナウイルス感染症に関するよくあるご質問について(周知)」を公表しています。
実習計画が取り消された場合、特定技能所属機関として満たすべき基準の欠格事由に該当する(入管法第2条の5第3項・特定技能基準省令第2条第1項第4号チ)ことから、5年間は特定技能外国人の受入れも不可能となってしまいます。外国人の受入れをお考えの企業様は特に労務コンプライアンスを徹底する必要があります。ご不明な点がございましたら、お早めに外国人労務に精通した当事務所にご相談ください。
また、出入国在留管理庁と厚生労働省は、令和2年1月24日で、実習実施者計7社に対し、技能実習計画の認定の取消しを通知しました(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08902.html)。
理由をみると、時間外労働に係る割増賃金の不払、労働関係法令違反の罰金刑が確定(2件)、認定計画にしたがった賃金・割増賃金の不払い、実習計画に従って技能実習を行わせていなかったことが挙げられており、実に7社中6社が労働関係法令違反によって実習計画の認定を取り消されています。
今号の目次
- パワハラ防止措置の義務化について
- あとがき
農業分野における技能実習生の労働時間・休憩・休日等に関する規定の取扱いについて
令和2年2月10日、機構はホームページ上で監理団体宛に「改正労働施策総合推進法等の施行によるハラスメント防止対策の強化に関する周知について(依頼)」(以下「依頼」といいます)を公表しました。(https://www.otit.go.jp/files/user/200212-6.pdf)
労働施策総合推進法の改正により、令和2年6月1日(※中小事業主は令和4年3月31日)から、職場におけるパワーハラスメント防止措置が事業主の義務となるほか、職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント防止対策が強化されることとなりました。このため、機構は、監理団体に対し、下記の【1】・【2】を求めています。
記
【1】防止措置の対象となる職場におけるパワーハラスメント等には、技能実習生を含むその雇用する全ての労働者に対するものが含まれるので、傘下の実習実施者に対して、依頼添付のリーフレットを配布するなどにより周知すること
【2】監理団体と技能実習生が雇用関係にないとしても、役職員が、傘下の実習実施者に在籍する技能実習生に対してパワーハラスメント等に類する言動を行うことのないよう、雇用管理上の措置の内容を参考にしつつ、適切な対応に努めること
ただし、技能実習生を受け入れている実習実施者のうち中小事業主に当たる方々は、令和4年3月31日まではパワーハラスメント防止措置については努力義務に留まります。まずは、パワーハラスメントの内容を抑えておきましょう。
職場における「パワーハラスメント」とは、職場において行われる【1】優越的な関係を背景とした言動であって、【2】業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、【3】労働者の就業環境が害されるものであり、【1】~【3】までの要素を全て満たすものをいいます(労働施策総合推進法30条の2参照)。
他方で、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しないとされています。では、どのようにして、業務上必要かつ相当な範囲内か否かを判断するのでしょうか。
パワハラの代表的な言動としては、【1】身体的な攻撃(暴行・強迫)、【2】精神的な攻撃(強迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)、【3】人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、【4】過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)、【5】過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、【6】個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)、の6つの類型があると言われています。
【1】身体的な攻撃がパワーハラスメントを言われることは当然であることは理解いただけるかと思います。今回は、業務上必要な指導なのか否かの境目が問題となることが多い【2】精神的な攻撃(強迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)について見ていきたいと思います。
まず、業務上の注意・指導である以上、部下の業務を改善するという目的が必要であり、かつ業務の改善のために不適切ではない方法によることが必要です。
そして、部下への指導の際、「死ね」といったそもそも人格を否定するような言葉や、「お前はクビだ」といった雇用関係の終了をうかがわせるような言葉を使うことは明らかに不適切です。
これらを他の労働者に伝わるような形で行うと労働者の名誉を傷つけることになりますし、必要以上に長時間叱責を繰り返すような場合は部下に無用な圧力をかけることになります。
これらの要素に加え、指導が行われるに至った背景を含めて個別具体的に業務上必要かつ相当な範囲内か否かを判断することになります。なお、依頼の添付のリーフレットは例示として下記を挙げています。
該当すると考えられる例 | 該当すると考えられる例 | |
---|---|---|
【1】人格を否定するような言動を行う。 相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。 【2】業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。 【3】他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う。 【4】相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する。 |
【1】遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする。 【2】その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする。 |
他方で、業務上の必要性が高く、緊急性が高いような場合(例えば一つのミスが怪我や死につながる現場)は多少厳しい言葉を使って指導をしても通常は問題とはなりません。あくまで、現場の実態に即して、業務上必要な指導を実施していくことが求められているとご理解下さい。
2. あとがき
このたびは第31回メールマガジンをお読みいただき、ありがとうございました。
できる限り皆様の御要望にお応えしていきますので、「このテーマについて解説が欲しい」等の御要望がございましたら、弊所までご連絡ください(ただし、顧問契約をいただいている方からの御要望を優先させていただきますので、悪しからずご了承ください)。
また、私見も交えてメールマガジンを発行しておりますが、万が一「これは誤りではないか」という御指摘がございましたら、合わせてご連絡頂ければ幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。