vol.16 2018/11/20
36協定について - 実習実施者が送検された事例 -
平成30年11月16日午後の国会で新たな在留資格「特定技能」を設けようとしている
出入国管理法(入管法)改正案の衆議院での審議がストップしてしまいました。
政府側がまとめた技能実習生の失踪をめぐる調査結果に誤りがあったことが
法務省から説明されたことがその理由のようです。
昨年の高度プロフェッショナル制度に関する審議の時もデータに誤りがあり、
法務省はいずれも「集計ミス」としていますが、いくら時間が限られているとはいえ、
「集計ミス」では説明として苦しい気がします。
一方、技能実習生が実習先の茨城県の農家に対して未払いの残業代の支払いなどを求めた裁判で、
水戸地裁は農家に約200万円の支払いを命ずる判決を下したことが報道されています。
報道によると、実習実施者の農家が、原告代理人が「賃金台帳を知っていますか?」
と質問したところ、「賃金台帳とはなんですか?」と聞き返すなど、
労働基準法を全く理解していなかったことが農家の悪質性を際立たせてしまった側面があります。
これらの報道からも分かる通り、外国人の問題がクローズアップされ、
必然的に技能実習制度そのものへ今まで以上に厳しい目が向けられています。
監理団体の皆様は、適正な技能実習を実現させるため、実習実施者に法令違反があった場合は
その旨を指摘し、関係行政機関に通報しなければならないという重大な役割を担っています
(技能実習法40条4項・5項)。
そんな皆様を弁護士法人グレイスはこれからも適切にサポートして参ります。
さて、ここのところ、36協定に関する質問がとても多いです。
そこで、今月は実習実施者が36協定違反で送検された事例を基に、
36協定について確認していきたいと思います。
それでは、第16回メルマガの配信です。
今号の目次
- 36協定について – 実習実施者が送検された事例 –
- 技能実習制度Q&A「監査の際、実習実施者に36協定違反があることを発見した場合、どのように対応するべきでしょうか。」
- あとがき
1. 36協定について - 実習実施者が送検された事例 -
報道によると、岐阜労働基準監督署は、中国人技能実習生に対して
時間外休日労働に関する労使協定(36協定)で定めた限度時間を超えて働かせたなどとして、
タカイ縫製(株)(岐阜県岐阜市)と同社代表取締役を労働基準法第32条(労働時間)
違反の容疑で岐阜地検に書類送検した、とのことです。
同社は、平成28年12月から29年2月にかけて、
中国人技能実習生4人に対して36協定の限度時間である月60時間を超えて、
最長84時間30分の時間外労働を行わせた疑いがもたれています。
なお、この事例では、賃金や残業代についても不適切な取扱いがあり、
最低賃金法を下回る賃金を支払っていたこと、及び時間外休日労働に対する
割増賃金の不払いがあり、この点でも処分を受けている、とのことです。
この点、1日8時間・1週40時間の法定労働時間(労働基準法32条)を超えて
労働(法定時間外労働)させる場合又は法定の休日に労働(法定休日労働)させる場合には、
あらかじめ事業場に労使間で書面による協定を締結し、
その事業所を所轄する労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
この事業場の労使協定のことを、労働基準法36条に規定されていることから、
一般に「36協定」と呼んでいます。36協定は、規模の大小を問わず、
全ての事業所で締結・届出をしなければならないものです。
36協定を結ばずに法定時間外労働・法定休日労働を実施した場合
又は36協定の限度時間を越えて労働をさせた場合、
違法な時間外労働を実施したものとして、労働基準法32条違反で6ヶ月以下の懲役
または30万円以下の罰金(労働基準法119条)が適用されます。
本件では、「60時間」の限度時間を定めていたところ、実際には最長で
「84時間30分」の時間外労働をさせていたことを理由に書類送検されてしまいました。
このように実習実施者が自ら限度時間を決定しているにもかかわらず、
それを超過して勤務をさせてしまっているケースはよく見かけられます。このような場合、
監理団体の皆様は決めた以上は限度時間を遵守するよう指導していくことが必要です。
現行法では、1日をこえる一定期間の延長することができる時間(以下「限度時間」といいます)
については、いわゆる時間外労働の限度に関する基準(平成10年12月28日労働省告示154号
「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長に関する基準」)で、
1ヶ月45時間、1年間360時間等の上限が定められています。
なお、現行法ではあくまで行政指導の基準であり、違反した場合の罰則は
設けられていませんでしたが、平成31年4月1日(中小企業は平成32年4月1日)以降は、
これらの限度時間に違反すると刑事罰が適用される法改正が実施されています。
詳細については当事務所のホームページにて解説しておりますのでご確認ください
(「36協定の留意点について弁護士が解説」)。
2. 技能実習制度Q&A
「監査の際、実習実施者に36協定違反があることを発見した場合、どのように対応するべきでしょうか。」
【質問】
監査の際、実習実施者に36協定違反があることを発見した場合、
どのように対応するべきでしょうか。
【回答】
監理団体の監理責任者は、是正のため必要な指示を行わなければなりません(技能実習法40条4項)。
36協定について是正指示を行った場合、当該監理団体の所在地を管轄する労働基準監督署に対し
通報(任意様式)しなければなりません(技能実習法40条5項)。
この通報については、監理団体の指導の下で、実習実施者に改善に向けた取組みを行わせることが
求められるものであり、当該通報を受けた行政機関は当該指導が不適切であると判断する場合等に
当該監理団体に対して指導を行うことになる、とされています
(以上につき、平成30年6月技能実習制度運用要領249頁参照)。
3. あとがき
このたびは第16回のメールマガジンをお読みいただき、ありがとうございました。
できる限り皆様の御要望にお応えしていきますので、
「このテーマについて解説が欲しい」等の御要望がございましたら、弊所までご連絡ください
(ただし、顧問契約をいただいている方からの御要望を優先させていただきますので、
悪しからずご了承ください)。
また、私見も交えてメールマガジンを発行しておりますが、
もし万が一「これは誤りではないか」という御指摘がございましたら、合わせてご連絡頂ければ幸いです。
今後とも宜しくお願い致します。