vol.03 2017/10/20
繊維・衣服関係の職種の技能実習生はマスクを作ることができるのか
2020年4月7日付けで改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき政府は新型コロナウイルス感染症対策として緊急事態宣言を発令し、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡を対象地域として指定しました。通常であれば、今月は当事務所が外部監査を依頼されている監理団体様を外部監査のために訪問するところなのですが、緊急事態宣言が出されている事実に鑑み、当事務所がクライアントに導入いただいているオンラインチャットツール「Chatwork(チャットワーク)」のWEB会議の機能である「ChatWork Live」を用いて実施させていただくことになりました。
緊急事態宣言の発令等に伴い、厚生労働省の新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)も日々更新されています(本メールマガジン執筆時点では「令和2年4月10日時点版」が公表されています。)。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-4)。
ここで、企業側として一番注目すべきは、「4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)」の問7です。なお、下線部は筆者によります。
問7 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合、労働基準法の休業手当の取扱はどうなるでしょうか。
労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありませんが、不可抗力による休業と言えるためには、
(1) その原因が事業の外部より発生した事故であること
(2) 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という要素をいずれも(※)満たす必要があります。
(1)に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。
(2)に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、
■自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
■労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
といった事情から判断されます。
したがって、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。
(疑問点等があれば、お近くの労働局及び労働基準監督署(https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/index.html)に御相談ください。)
上記のQ&Aは難解な文章ですが、厚生労働省としても、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止する場合に休業手当の支給が不要になる場合があることに含みを残した記載になっています。おそらく、厚生労働省として「休業手当の支払いが不要になる」と書いた場合、休業手当の不支給が頻発されるおそれがあることを懸念して上記のような記載になっているのでしょう。
企業側としては、単に緊急事態宣言が出た、というだけでなく、自宅勤務の方法ができないのか、他に就かせることのできる業務はないのか、といったことについて十分に検討することが必要です。
コロナウイルスの関係で休業をする場合の対応については法的に微妙な判断が求められることになります。当事務所にはコロナウイルスに関する一時休業や資金繰りなどをはじめとしたご相談が多数寄せられております。疑問点がある場合はそのままにせず電話・メール等でお気軽にご相談ください。
今号の目次
- 繊維・衣服関係の職種の技能実習生はマスクを作ることができるのか
- あとがき
1. 繊維・衣服関係の職種の技能実習生はマスクを作ることができるのか
先日、岐阜一般労働組合が法務省及び厚生労働省に対し、技能実習生にマスクづくりをさせるために、技能実習計画の一部変更の特例措置を求める要望書を提出した、という報道に接しました。
(出典:2020年4月6日16:48:Yahoo!ニュース「『技能実習生によるマスクの生産を可能に』岐阜一般労働組合が実習計画の一部変更を要請(巣内尚子)」)
新型コロナウイルスの影響で縫製業の仕事が激減する中、コロナウイルス感染症対策としてニーズの高いマスク作りを行うことが実習生の雇用安定と地域社会への貢献につながる、という考えは理解できるところですが、法務省・厚生労働省がどのように対応するのかがとても気になっていました。
そうしたところ、2020年4月13日付けで「新型コロナウイルス感染症に関するよくあるご質問について(周知)」が更新された旨が外国人技能実習機構のホームページにアップされ、以下のQ&Aが追加されました(https://www.otit.go.jp/files/user/docs/200413-3.pdf)。
Q10 技能実習生がマスク等の医療用資材の製造に従事することは可能でしょうか。
A10 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、マスクや医療用資材の需要がひっ迫していることも踏まえ、当面の間の措置として、繊維・衣服関係の職種(※)の実習実施者は、技能実習を行っている時間全体の2分の1の期間、関連業務としてマスク等の製造に従事させることが可能です。
マスクの製造に従事させようとする場合には、業務の内容の説明資料(様式はありませんので、任意の様式で作成してください。)及び技能実習計画軽微変更届出書を機構の地方事務所・支所の認定課に提出してください。詳しい手続は機構の地方事務所・支所に相談してください。(注)
なお、技能実習に従事する時間全体の2分の1以下の期間内であれば、一定期間、マスク等の製造のみに従事することも可能としますが、技能検定合格等の技能実習計画に掲げた目標を達成できるよう、必須業務の技能等の修得等にも配慮して下さい。事業所において、マスクの製造以外の業務が縮小しているような場合には技能実習日誌等に記録するなどしてください。
その他、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う事業内容の変化によりマスク以外の医療用資材の製造に技能実習生を従事させることについて判断に悩む場合には、事前に機構の地方事務所・支所の認定課に御相談ください。
(※)移行対象職種・作業である繊維・衣服関係の職種・作業 紡績運転、織布運転、染色、ニット製品製造、たて編ニット生地製造、婦人子供服製造、紳士服製造、下着類製造、寝具製作、カーペット製造、帆布製品製造、布はく縫製、座席シート縫製
(注)機構の地方事務所・支所では、感染拡大防止のため来所ではなく電話でのご相談をお願いしております。
現実の必要性から、繊維・衣服関係の職種でマスクなどの製造を認めたことは画期的なものであるといえると思います。ただし、上記のQ&Aからすると以下の点に注意しなければなりません。
(1) マスクなどの製造に従事する場合は、【1】業務の内容の説明資料、及び【2】技能実習計画軽微変更届を機構の地方事務所・認定課に提出しなければならないこと。
→今回は特例的に認められたものなので、手続きに漏れがないようにしないといけません。
(2) (1)を行ったとしても、あくまで、技能実習を行っている時間全体の2分の1の期間、関連業務としてマスク等の製造に従事させることができるにすぎず、必須業務を2分の1以上行わなければならないことに変わりはなく、必須業務の技能の習得等にも配慮することが求められていること。
→ここの管理が重要です。マスクが必要だからといって技能実習生がすべての時間マスクを作っていたような場合は認定計画にしたがって技能実習が行われていない、ということになってしまうので、現場の時間管理が重要となります。
(3) マスクの製造以外の業務が縮小しているような場合は技能実習日誌等への記録が求められていること
→しっかりと記録を取っておくことが重要です。
あくまで上記の措置は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、マスクや医療用資材の需要がひっ迫していることも踏まえた「当面の間の措置」ということなので、今後の動向は引き続き注視していく必要があるといえるでしょう。
2. あとがき
できる限り皆様の御要望にお応えしていきますので、「このテーマについて解説が欲しい」等の御要望がございましたら、弊所までご連絡ください(ただし、顧問契約をいただいている方からの御要望を優先させていただきますので、悪しからずご了承ください)。