vol.20 2020/01/21
農業分野における技能実習生の労働時間・休憩・休日等に関する規定の取扱いについて
前回のメールマガジンで、令和元年11月12日に法務省が実習生の失踪防止に向けた取り組みを公表したことをお伝えしました。さらに、令和元年12月24日付けで、監理団体及び団体監理型実習実施者を名宛人として、外国人技能実習機構のホームページ上でも出入国在留管理庁長官名義で「技能実習制度における失踪問題への対応について」が公表されています。こちらには、在留資格「特定技能」について、受入機関側が外国人の失踪を発生させた場合、特定技能外国人の受入れも認められないことがあり得、技能実習生の失踪を発生させた場合のリスクは大きいものとなっていることが指摘されています。
特定技能所属機関の要件として、「特定技能雇用契約の締結の日前1年以内又はその締結の日以後に,当該特定技能雇用契約の相手方である特定技能所属機関の責めに帰すべき事由により,外国人の行方不明者を発生させていないこと」(出入国管理法第2条の5第3項・特定技能基準省令第2条第3号)が求められています。ここでいう「責めに帰すべき事由」があるとは,「特定技能所属機関が,雇用条件どおりに賃金を適正に支払っていない場合や1号特定技能外国人支援計画を適正に実施していない場合など,法令違反や基準に適合しない行為が行われていた期間内に,特定技能外国人が行方不明となった場合をいいます。そのような法令違反や基準に適合しない行為が行われていた場合には,人数に関係なく,特定技能外国人の行方不明者を1人でも発生させていれば,本基準に適合しないこととなる」との解釈が示されています(令和元年9月特定技能外国人受入れに関する運用要領 50頁)。
大変厳しい要件ですが、特定技能外国人を受け入れている企業様は法令違反や基準に適合しない行為が行われないようにコンプライアンスを徹底する必要があります。特に中小企業に対しても、本年4月1日から時間外労働の罰則付き上限規制が適用されますので、くれぐれもご留意ください。ご不明な点がございましたら、お早めに外国人労務に精通した当事務所にご相談ください。
今号の目次
- 農業分野における技能実習生の労働時間・休憩・休日等に関する規定の取扱いについて
- あとがき
農業分野における技能実習生の労働時間・休憩・休日等に関する規定の取扱いについて
ある監理団体様から、農業分野の技能実習生に対しても労働基準法の労働時間・休憩・休日等に関する規定については適用除外であると指導している社会保険労務士がいるが、その指導は正しいのか、という御質問をいただきました。そこで、今回は農業分野における技能実習生の労働時間・休憩・休日等に関する規定の取扱についてご説明いたします。
農業労働の場合、気候や天候に大きな影響を受けるという特殊性から、労働基準法の労働時間・休憩・休日等に関する規定については適用除外とされています。すなわち、労働基準法41条は、労働時間、休憩及び休日に関する規制についての適用除外を定めているところ、「土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業」(別表第一第六号(林業を除く。))はその対象の一つとされています(労基法41条1号)。
このため、通常の農業労働者に対しては、36協定の締結・届出や割増賃金の支払は不要である、ということになっています(ただし、深夜業に関する割増賃金に係る規定及び年次有給休暇に関する規定は適用があります。)。
しかしながら、農業分野の技能実習生に対しては農林水産省の方針の下、通常の労働者に準拠した取り扱いが求められます。
すなわち、平成12年3月農林水産省構造改善局地域振興課「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」(以下「通知」といいます)は、「農業の場合も労働生産性の向上等のために、適切な労働時間管理を行い、他産業並みの労働環境等を目指していくことが必要となっている」として、「労働時間関係を除く労働条件について労働基準法等を遵守するとともに、労働基準法の適用がない労働時間関係の労働条件についてを、基本的に労働基準法の規定に準拠するものとする。」としています。すなわち、農業分野の技能実習生に対しては、労基法上は時間外・休日労働の適用除外職種ではあるものの、労基法に準拠した取り扱いをしなければならない、ということが求められています。
そして、平成25年3月28日 農林水産省経営局就農・女性課長「農業分野における技能実習生の労働条件の確保について」において、今後とも、通知を踏まえた 適正・的確な制度の運用に努めること、また、通知に反して、時間外労働・休日労働に対する割増賃金を支払わない雇用契約を締結している事案が報告されているほか、時間外労働に対する不当な低賃金といった不正行為の事例が公表されているところであることを指摘した上で適切な技能実習を行うよう求めています。
上記のとおり、農業の実習実施者は労働時間・休憩・休日等に関する規定の適用除外職種であることから、時間外・休日労働を管理しなければならないという意識がないのが通常です。したがって、監理団体が労働時間を管理しなければならないこと、割増賃金の支払いをしなければならないこと等通知に基づき適切に指導していくことが必要です。
2. あとがき
このたびは第30回メールマガジンをお読みいただき、ありがとうございました。
できる限り皆様の御要望にお応えしていきますので、「このテーマについて解説が欲しい」等の御要望がございましたら、弊所までご連絡ください(ただし、顧問契約をいただいている方からの御要望を優先させていただきますので、悪しからずご了承ください)。
また、私見も交えてメールマガジンを発行しておりますが、万が一「これは誤りではないか」という御指摘がございましたら、合わせてご連絡頂ければ幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。