vol.56 2022/04/01
実習生が死体遺棄罪に問われた事件~高裁判決~
今号の目次
- 福岡高裁令和4年1月19日判決
- 有罪判決の理由
- 量刑を下げた理由(技能実習の実情)
- 当事務所の紹介
1. 福岡高裁令和4年1月19日判決
技能実習生が実習期間中に妊娠をしたが、妊娠が発覚すれば、実習が中止となることを恐れ、孤立出産をした実習生が死体遺棄罪で有罪判決(懲役8ヶ月、執行猶予3年)を受けた判決(原審:熊本地裁令和3年7月20日判決)の控訴審判決が出ました。
福岡高裁は原審を破棄し、懲役3ヶ月、執行猶予2年の判決をしました。
熊本地裁の判決については本コラム令和3年8月号で取扱っておりますので、ご興味のある方は併せてご確認ください。
2. 有罪判決の理由
本件は死産したえい児2名の死体を「段ボール箱に入れて接着テープで封をし、その段ボール箱を別の段ボール箱に入れて接着テープで封をした上、自室内にあった棚の上に置いた」行為が死体を「遺棄し」たと評価できるが争いとなりました。
より詳細には、被告人が「自宅にあった布団の上で双子のえい児の死体をタオルで包んだ上で段ボール箱に入れ、その上に別のタオルを被せ、更にその上に手紙(各えい児の名前、生年月日、おわびの言葉、ゆっくり休んでくださいという趣旨の言葉が書かれたもの)を置いた上でその段ボール箱に4片の接着テープで封をし、その段ボール箱を白色の段ボール箱に入れた上でその段ボール箱に9片の接着テープで 封をし、その状態の白色の段ボール箱を自室内にあった棚の上に置いた。」行為が死体遺棄罪に該当するかが問われました。
弁護側は「被告人が本件各えい児の死体を段ボール箱で二重に包んだ理由は本件各えい児が寒い思いをしないで済むと思ったからであることなどから、本件作為は遺体の安置と評価すべきものであって、本件各えい児の死体を隠匿する行為であると評価することはできない。」などと主張しました。
これに対して、福岡高裁は「えい児の死体を二つの段ボール箱で二重に包み、合計で十数片の接着テープを用いて封をした上で自室にあった棚の上に置き、他者がそれらの死体を発見することが困難な状況を作出したことは、葬祭の準備等として保管するためには必要のないものであって本件各えい児の死体を隠匿する意思をもってその行為をしたと認められる。」等と判示し、死体遺棄罪の成立を認めました。
3. 量刑を下げた理由(技能実習の実情)
福岡高裁は地裁判決よりも量刑を下げた理由の1つとして「妊娠は技能実習生の解雇理由にはならないものの、実情としては、妊娠した技能実習生の中には、実習を行うことができなくなり、家賃等を支払うこともできなくなって帰国した者がいた。技能実習生の間では妊娠をすると帰国させられるとの噂が広まっており、被告人もそのように考えていた。そうすると、少なくない費用をかけて技能実習生として来日し、家族に仕送りをしていた被告人が、技能実習を続けるために、妊娠、出産を隠そうと考えて本件犯行に及んだことには一定程度酌むことのできる事情がある。」と判示しています。
4. 当事務所の紹介
上記判決についてどのように感じられましたでしょうか。
技能実習制度そのものについて感じる部分も多い事案であったと思います。
当事務所では、企業の皆様にとって「法務部のアウトソーシング」といったイメージでご利用いただけるよう、「chatwork」をはじめ、皆様からご相談いただきやすい環境作りに努めております。
今後も皆様のお役に立てるよう努めてまいりますので、お気軽にご相談ください。